自分はコンピュータサイエンスを専攻する20歳の大学生である.
ここ数年人と会話する時, 音自体は聞こえるが何を言っているのか理解できないという症状に悩まされている. 学校の聴力検査では全く問題が無いのに言葉が聞き取れない, 雑音が入るととても聞き取りづらくなる, 音韻が似ている他の言葉に聞き間違える等. いつからそういう症状に悩まされていたのかははっきりと覚えていないけど, 大学に入って (18歳の時) から悪化し, 症状について深刻に考え始めたと記憶している. 大学センター試験の英語のリスニング試験で耳が悪いからという理由でイヤホンの音量大きめにしていたので, 少なくとも大学に入る前からはそうした症状はあったはずだ. 音は聞こえるから難聴では無さそうだし, 脳の問題か何かだろうかと考えてはいたものの, 具体的な病名などが思い当たらないし, 調べても出てこなかったので放置していた.
最近、耳が遠くなってきたし年なのかな
— mizdra (@mizdra) 2016年9月15日
耳が悪いのかよく話している内容が聞き取れなくて, 何回も聞き直してしまう
— mizdra (@mizdra) 2017年5月12日
そんな状態だったが, 今日Twitterを眺めてたらこんなTogetterが流れてきた.
どうも聴覚情報処理障害 (APD: Auditory Processing Disorder) と呼ばれる障害についてのまとめらしい. それによると, 聴覚情報処理障害には以下のような特徴があるとのこと.
・ことばの発達が遅い
・「え?」「何?」など、聞き返しが多い
・騒がしい場所での聴き取りが苦手
・文字情報の方が正確に理解している(授業で板書がないと理解できない等)
・音韻が似ている言葉を聞き間違える
・言葉での指示に対して反応が遅れる
・聴覚的な記憶力が弱い引用元: https://naraigoto-kids.jp/magazine/topic/auditory-processing-disorder/
このリストを初めてみた時, とても驚いた. いくつも心当たりがある症状が書かれていることも驚いた理由の一つだが, 最も驚いた理由は「騒がしい場所での聞き取りが苦手 」や「音韻が似ている言葉を聞き間違える」といった難聴などでは説明が難しい症状が含まれていることだ. 自分はもしかしたら聴覚情報処理障害なのだろうか.
症状を照らし合わせる
とりあえずリストの中で自分の当てはまる症状にチェックしてみることにした. また, 合わせてチェックを付けた理由や根拠となった実際の体験を書いておいた.
- ことばの発達が遅い
- 「え?」「何?」など、聞き返しが多い
- 音は聞こえているが, 何という言葉か理解できないことが多いため
- 騒がしい場所での聴き取りが苦手
- 雑音が入ると言葉が理解できない確率が跳ね上がるため
- 文字情報の方が正確に理解している(授業で板書がないと理解できない等)
- 文字情報と比べて会話は言葉の意味を理解するまでに時間が掛かりがちなため
- 音韻が似ている言葉を聞き間違える
- 家族との会話である言葉を自分だけ聞き間違えることがよくある
- 言葉での指示に対して反応が遅れる
- 指示をされた時, その指示の内容が聞き取れずに聞き返したりして, 指示の意味を理解するまでに時間が掛かることがある
- 聴覚的な記憶力が弱い
7つの内5つにチェックが付いた. 5つチェックが付いたからといって聴覚情報処理障害であると断定できる材料に必ずしもなる訳ではないが, 聴覚情報処理障害に見られる症状がいくつか自分にもあることは間違い無さそうだ. チェックが付かなかったところは現状自覚できていないだけで, 本当はそのような症状も見られるかもしれない.
大学生時代の出来事を振り返ってみる
とりあえず自分が聴覚情報処理障害に見られる症状をいくつか抱えていて, その障害の疑いがあることが分かった. そこで仮に自分が聴覚情報処理障害であると仮定して, 大学生時代 (直近3年間) の出来事を振り返ってみることにする. もしかしたら, なにげない日常の, 今まで気にも止めていなかった所に障害に由来する出来事があるかもしれない. 以下に障害に由来すると思われる自分の出来事を示す.
- 学校の聴力検査で検査に使用される音は全て聞こえ, 会話でも発せられた音は聞こえるが, 言葉が聞き取れないことがよくある
- 誰かと会話しながら歩いていて, 自分がその一番後ろを歩いている時, 前を歩く人が前を向いて発した言葉が聞き取れないことがよくある
- 複数人で話していて自分だけ似たような音韻の違う言葉に聞き間違えることがよくある
- 指示をされた時, その指示の内容が聞き取れずに聞き返したりして, 指示の意味を理解するまでに時間が掛かることがある
- 同じことについて5回以上連続で聞き返すことがある
- 聞き返すことに次第に億劫になる
- 聞こえているふりをして頷いて後から後悔することがよくある
- 上手く聞き取ろうと会話する時に耳を近づける癖がつく
- 聞き返しすぎて聞き返すことに慣れる
- 歌の歌詞が聞き取れないことがよくある
- 映像作品のあるシーンの会話が聞き取れなくて何度も戻って再生することがある
- 無線や電話での会話が全く聞き取れないことがある
- 聴覚の異常を自覚し, 将来の就職先として無線や電話を使う職業を避けたいと思うようになる
- 聞きやすいようにテレビの音量を大きくしたら, 音量が大きいと他人に指摘されることがよくある
- 話の意味を理解しようとして, 省略された主語や目的語を聞き返すことがよくある
こうして一覧すると, 予想以上に心当たりのある出来事が出てきて驚く. いっそう聴覚情報処理障害の疑いが深まるばかりだ. 聴覚情報処理障害である人やその疑いがある人は, この出来事に心当たりはあるだろうか.
子供の頃の出来事を振り返る
大学生時代の出来事を振り返ったので, 今度は子供の頃の出来事を振り返ってみる. 先程と同様に以下に心当たりのある出来事を示す.
- 学校での勉強で, 口頭からの情報より板書や教科書などの文字情報のほうが理解しやすい
- 自分と似たような名字の人の名が呼ばれた時に, 自分が呼ばれたと勘違いすることがよくある
- 勘違いしやすいことを学習し, 呼ばれてから暫く間を置き周りの状況などから自分が呼ばれた証拠を掴もうとすることがよくある
大学生時代の心当たりのある出来事と比べて, 子供の頃の心当たりのある出来事の数はわずかであることがわかる. これは自分に過去のことをすぐに忘れてしまう *1 傾向があることが原因かもしれない.
そう最初は思っていたが, 色々調べていると以下のような記述が見られるサイトが見つかった.
子供のころに、聴覚情報処理障害に気が付くことはほとんどないかもしれません。思春期以降に、あるいは、かなり年をとってから、周囲の人の話し声が聞きづらいことに気が付きます。多くは、仕事場で回りの人から口で言われたことがよくわからなくて、仕事に支障をきたしてから認識することが多いようです。
…何だか答え合わせをしているような感覚になってきた. 子供の頃の心当たりのある出来事が少ないのは忘れっぽいせいだけではなく, 症状に気付きにくい環境に居たからなのかもしれない.
話題を共有してみる
今まで不明だった原因が分かりつつあることに感動し, この思いをSNSで共有してみることにした. 自分も20歳になってようやく聴覚情報処理障害という障害が存在することを知ったので, もしかしたら同じように障害の疑いがあるにも関わらず, 障害のことを知らない人が居るかもしれない.
NowBrowsing: 人の話が音として聞こえるけど、言葉として聞こえない現象に思い当たる人多数→「聴覚情報処理障害」かも…? - Togetter: https://t.co/3d6k8OoAHM
— mizdra (@mizdra) 2018年9月20日
聴覚情報処理障害の症状, めちゃめちゃ心当たりがあって今まで言葉が聞き取れないこと多かったのこれが原因か…?となっている
— mizdra (@mizdra) 2018年9月20日
すると, 予想通り続々と症状に心当たりのある人が出てきた.
そうした人に話を聞いてみると, どうやら自分と同じく「聞き返しすぎて聞き返すことに慣れる」や「聞こえているふりをして頷いて後から後悔する」といった出来事が見られるらしい. そして彼らも障害の名を知らず, 自分と同じように悩んでいた.
エンジニアには聴覚情報処理障害を抱える人が多いのではないか
このように障害の疑いのある人が多く出てきた理由として, 「世の中には想像以上に障害を抱えている人が居るから」「偶然周りに障害を抱えている人が集まっていたから」などが考えられるが, その他に「自分 (@mizdra) が障害を抱えている人が集まりやすいコミュニティに属しているから」という理由もあるのではないかと考えている. 聴覚情報処理障害(APD)のサイトでは, 「聴覚情報処理障害の人の今後の注意点」が次のように語られている.
言葉でのコミュニケーションが重要になる仕事、仕事が忙しく聞こえたことを瞬時に判断しなければならない仕事には向きません。(中略) では、逆に向いている仕事とはなんでしょうか。パソコンで文章を作ったり、レジを機械的にうつような仕事は向いているでしょう。文章を作ったり、何かものを一人で作るような仕事も向いているでしょう。作家、調理人などはいいかもしれません。
聴覚情報処理障害の疑いのある人は障害のことを知らないものの, 聴覚の異常は感じている. であれば, 彼らはその異常に応じて仕事も選んでいるのではないだろうか. 偶然にも, 自分はWebフロントエンドエンジニアとしての活動を行っており, Twitterなどでエンジニアが多く集まるコミュニティに属している. エンジニアは一般に, 無線や電話をあまり/殆ど使わず, 雑音のある環境で仕事をすることも少ない, 聴覚情報処理障害の人が働きやすい職業だろう.
もし「自分の所属するコミュニティには聴覚情報処理障害の人が多い」という仮説が正しいのならば, 自分が聴覚情報処理障害の情報を発信することは非常に価値があるだろう. そう考え, この記事を書いた. 上手くいけば多くの人に聴覚情報処理障害について知って貰うことが出来るかもしれない.
聴覚情報処理障害の疑いがあると分かったら
聴覚情報処理障害の疑いがあると分かったら, 医師の診察を受けよう. 聴覚情報処理障害やその他の聴覚に関わる障害や病気など, 様々な視点から診断をしてくれるはずだ. 以下のサイトに聴覚情報処理障害に詳しい医療機関と医師のリストが載っているので, 参考にすると良いだろう. 自分も後日受診してみようと思う.
聴覚情報処理障害への対処方法については環境調整, 補聴手段の利用, 直接的な支援方法, 心理的な支援の4つの面から以下のサイトで説明されている.
聴覚情報処理障害のことをもっと知りたい
聴覚情報処理障害(APD)のサイトでも紹介されている通り, 書籍が出ているので聴覚情報処理障害のことをもっと知りたい場合は読んでみると良いかもしれない.
きこえているのにわからない APD[聴覚情報処理障害]の理解と支援
- 作者: 小渕千絵,原島恒夫
- 出版社/メーカー: 学苑社
- 発売日: 2016/11/18
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*1:幼少期や小中高の学校生活のことは他の人と比べて覚えていることが少ない傾向がみられる.